フラットインタビュー vol.7 LIC訪問看護リハビリステーション 黒沢さん(後編)

VOICE

後編にあたる最終回は、救命救急で勤務していた黒沢さんがどんな思いがあり、病院の外に出て、在宅看護に飛び込んだのかってことからスタートし、飛び込んでみて感じたことや見えてきたことなどを伺いつつ、より専門的な在宅看護を学びに大学院に行っている黒沢さんの現在地とこれからのことについても話を聞いていけたらなぁと思っております。

救命救急の現場から在宅看護へ

– 看護師として、「救命から在宅看護へ」ってそんなに多いとは思わないんですけど、そのあたりの経緯というかどういう気持ちでそこに至ったのか…っていう部分を教えてもらえますか?

黒:救急って働いてると当たり前なんですけど搬送されてくるんですよね。で、もちろん切迫した状況じゃないですか。でも更に搬送をされてくるって状況になると、より切迫するっていう状況が結構日常的なんですよね。
これって働いている病院の役割ではあるんですけど、だんだん慣れてきたりしてくるんですよね。もちろん一生懸命やってるんですけど、だんだん従うようにやっていたりとかして。ふと立ち止まって考えるって時間はないんですよね。少なくとも自分はそうなれなかったし。

医師の指示のもと、救急の看護として「何が必要なことか」って考えながら職務を全うしてたんですけど、やっぱり治療とか救命っていうところに一番重きがあるからそれ以外を考えてる余地がない。もちろん目の前の人が死んでしまったら意味がないし。
とはいえ、目の前の人を助けるっていうのももちろん大事だけど、ここに来ないって選択肢ってもっとあったんじゃないかって感じていて、それが特に高齢者の救急搬送だったり、すごい覚えているのは神経難病の人が運ばれてきた時だったり、あと法律上の検死になりますってとき…、で、看護師としてそれを減らすことができないかな、ってふと思ったんですよね。ケアと治療が分断されているような印象を感じて。だったらその手前とか、自分が救急で経験したことが場所が変わると役立つんじゃないかなって。※
※このあたりは中編の後半にも載ってます。

– なるほどっすね。

黒:あともう一つ大きいのが、「また来た..」みたいな感じで愚痴っちゃうんですよ。やっぱり現場では疲弊しているから「今日大変だったねー」とかそういう会話になっていっちゃうんですよね。自分自身もそうなってしまうのが嫌だったりして、ここ(救命)に来なくて済むってことがつくれないかな、ってことで病院を出て在宅看護に触れていくって感じですねー 

– コレどこまで載せてもいいんすかね?

黒:全然いいんじゃないすか。むしろ現実だから載せた方がいいかと。

現実っすよね。
その切迫する感じって、在宅看護で夜に緊急コールが鳴るのだって変わんないすもんね。ただ、その呼ばれる呼ばれないとか、内容については日常の関わり方で変わるけど。

黒:在宅看護における緊急コールって、同じ人やチームのメンバーが普段看ているっていう前提じゃないですか。なので、普段の介入の仕方や関わり方で変わるんですけど、救命の現場って有事対応になるので、来る前についてはまったく見えないから防ぎようがないんですよね。
で、少しでもそこを変えるってなったときに自分が看護を行う「場所を変える」っていうのが、多少高飛車な言い方だけど、「オレが在宅行ったらもうちょっと変えられるんじゃね?こうなる前にどうにかできんじゃないの??」って思ってたのは事実ですね、その時点で。

– 「病院を出て在宅にいったら具体的に何ができる!」っていうよりも、「いまのままでは変わらない。だったら自分が動いて、自分が病院から出て行って変えていこう」って感じすかね??
私の話になっちゃうんすけど、福祉用具や生活環境調整みたいな仕事を通じて現場に関わっている中で、「同じような研修が10年くらい前からやってるけど現場がさほど変わってない。変わってる地域もあるけど目の前の現場や少し広い視点で大きくケアの現場みたいなところを考えた時にやっぱ変わってないんじゃないか。ハードは綺麗になってるけど現場はそう変わっていないんじゃないなか」ってなると、アプローチ方法が違うんじゃないかって思いはじめて自分の中で結論を出して、だったら既存のフレーム(そのときは福祉用具屋さん)から離れてみようって結論に至るって感じなんすよね。

黒:あー、なるほどー。思考停止になっちゃうんすよね、それしか知らないと。
私の場合、在宅っていうよりも、救急医療を外側からサポートするにはどうしたらいいかっていう想いだったんだと思うすね。そのときは救急のことしかわからないから。初期衝動じゃないすけど、この救急車が1本来なかっただけで、違う命が助かったり、救われたりする人がいたかもしれないみたいなことをずっと感じていたので。

 

LIC訪問看護リハビリステーションに入職して…

 – 実際に在宅看護に入って感じる救急搬送とか救急のことってどうでした?

黒:訪問看護に入ってちょっとした頃、スタッフの看護師AさんとリハビリのBさんから「黒沢さん来てから救急搬送される人が増えた」って言われたんすよね。嫌なこととしてじゃなくて、ファクトとして言われて…、笑い話ではあるんすけど(笑)

 – 救急車減らすって言ってたのにって??(笑)
ちなみに、訪問看護に入って、はじめに感じた「あれ?」とかなんかいい意味でも悪い意味でも違和感みたいなものってありました?

黒:ALSの患者さんのケースを2件呼吸器を利用されている方を、入ってすぐにがっつり担当したんですけど、今振り返ると「いきなり2件?」って感じですよね。でもそれで、身体の部分をきめ細やかにどうみるか、触り方とか、家族システムとかフィジカルではない環境だったりの部分を意識したというか意識せざるをえない、というか。

 – その頃のサ担めっちゃ覚えてますよ、事前の流れと前日夜遅くまでの打ち合わせ(笑)
※サ担:サービス担当者会議:その人に関わるサービス提供チームが集まり、現状や課題、目標などを共有していくための会議(自宅で開催が多い)

黒:救命を出て在宅に来てから「自分が実践することで1つの救急搬送を減らした」っていう風なことをしように注力していたんだけど、逆に私が入る前後のタイミングで利用者さんの重症化率があがったんですよね、特に神経難病の方だったり呼吸器をつけている方の対応が増えて。これって在宅看護1年目でなかなか経験できないことだったし、神経難病についても触れることができたのは振り返るとすごく大きい経験だったんだなぁと思います。
そんな中で実際、とある緊急の対応をしたときの話なんですけど…
「明らかにこれはやばいから今日これ放っておいたら死んじゃう」っていう人がいて、通院を促したけど頑なに病院には行かない。で、結果的に深夜に何度も緊急コールで呼ばれて対応はしていたんですけど、最後はトイレで倒れていて…って状況で。行ったからには心臓マッサージして救急車ももちろん呼んで救急隊に引き継ぎしているときに、「あれ?こういう人を救命にいたときに病院で受けてた!」ってフラッシュバックになったんすよね。

 – そこでつながったんすね。

黒:「あ、なかなか減らせないわ、救急搬送。」ってそのとき実感したんすよね。
ただ身体のことを理解しているだけでは無理で、気持ちのこととか環境のこととかもすごく関わってくるし、この救急搬送を防げたかっていうとそれだけじゃ無理なんだな、って。
家族の人がそれを発見する場所とかタイミングとかは変えられたかもしれないけど、「救急搬送を減らすのって難しいかもしれない」ってそのときにあるスタッフとも話したんですよね。救急隊といっしょに病院どこかって確認しに追っかけていったんすよね、病院の初療室まで。で、見なれた光景になるんすよね。でも、思ってたこととなんか違うな、って。
そのうえ、またある人から「救急搬送ってそんなに悪いモノなの?」っていう問いを投げられたときに救命からでてきたばっかりのそのときの自分は「そりゃ、よくないっしょ!?」と思いつつ、でもいろいろ在宅に出て経験していく中で搬送っていうことが悪いってことではないし、必要なことだし、高齢者救急っていうのは社会問題になっているけど本質はそこじゃないよな、って。複合的な問題とか課題が転がっていて、すごく専門性の高い看護師がいたからって救急搬送が減らせるもんじゃないなって気付かされたし、意気込んで出てきたけど、すごくリセットされたんすよねー

在宅看護に関わり、3年経過

 – 笑いながら話してくれてますけど結構やられた感じですかね。そんな中で手応えというか、なんか見えてきたなというか、そういう風に捉えたりしていく感じなんですかね?

黒:最初の2年半はわからないことに向き合ってきたので苦しかったんですけど。現場は荒れるし、揺れるし、寄り添うことで精神力にもやっぱり削られるし。でも、3年くらい経ってきた頃にちょっと抜けてきた。理由は向き合ってきたっていうのと、社内のそれこそ滋夫さんとか石田さんとか、他の職種のスタッフとも話すようになって、思考が整理されたりして経験とか時間が飽和してきたんでしょうね。その中で1つの気づきを得たというか。その気づきの1つが「救急車を呼ばない」ではなく、できるだけ考えたり納得した状態、選択できるってことが、事前にできるってことが大事なんだな、って思うようになったんですよね。

 – その頃からなんすかね、「救急搬送を減らす」っていう言葉から「適正な利用」みたいな言葉を使い始めたのって。自分は黒さんからいろんなエピソードも聞いてたから、そういう状況にならないようにするにはなんかできるんじゃないか、みたいな。その頭に焼き付いているシーンをちょっとでも減らすことだったり、起こっちゃった後の無駄な不幸を減らすだったり、そうなったとしても納得できるように、肯定できるように整えておく、みたいなことなのかなぁとは思ってたんすよね。

黒:一足飛びにいけないってのもわかってたし、自分が経験してきた救命だったり、ターミナルだったりの場面では、エビデンス・医学的根拠みたいなことを抜かして考えるということは悪とされていた。だけど、ものがたり的な、エピソード、気持ち、感覚、暗黙知、雰囲気を感じとることも1つの大きな能力になりそうだなって。まだ言語化できてなかったけど、患者さんや家族だったりが何を望んでいたのかとか、看護師としてそこに触れられているか、関係性が構築できていたのかとか、そういうことに意味や価値があるんだろうな、って思ったし、救急搬送減らせるんじゃないかって思ったんですよね。フィジカルのことだけでなく両方が必要なんだなって。そのとき医学モデル/社会(生活)モデルって概念に出会って腹落ちして、だったら両方減らせたらたらいいんじゃないかって思えたのは大きな気づきだったすね。その人の暮らしの視点で見た時に、医学モデルの解が必ずしも正しくないって。

 – その人にとっての正しいとか、気持ちいいとかも医療からみたものとは違うことが多いし、嫌いとか怖いとか….本人、家族、関わる人にとっても違うし、その中でどういうプロセスを踏めるのか、踏めない中でどうするのか…みたいなことすもんね。

 黒:不幸の最小化って言葉をうちの会社(シンクハピネス)で言葉が出ているけど、それにつながってないっていうか。最適じゃないじゃないじゃないですか?ベストでもベターでもないっていうか…全体最適っていうよりは、0にはできないけど0に近づけていくっていう方が結果として最小化するって。救急搬送に関してもソコだなって。

こういう感覚、ケアしてる/されてるっていう、例えば看取りのときの雰囲気とか感覚とかって、たった1回の訪問で「変わった」とか「今日違う」っていう感じることがあって、それってなんだろうって。同じことをしていてもケアの質が変わる、っていうことを感じたときにそれってなんだろうって。そういうことをもう一度考えると、看護ケア、対人援助職として学びたいって思って大学院に行くってことにつながるんですよね。

またこれとは別になるんですけど、病院看護/在宅看護って部分は専門領域としてはあるけど、カテゴリーは分かれているけど、だれを対象にしているかっていうことでいえば変わらないんですよね。うちの会社で言う境界線の話もしてるじゃないですか、曖昧にするとか壁を壊すとか、だんだん落とし込めるようになってきているっていう部分もあるんすよね。
実際に地域の病院とうちのステーションの相互研修も進めていて、自分の肩書きとしてもポジションパワーも使えたりはするし、ある意味ではその称号が欲しかったってのもありますね。

将来的には、病院の退院調整の病棟に訪問看護師が当たり前にいる、みたいな世界観。
今までより在院日数が減ったり、今までよりスムーズに退院できたり在宅につながって…病院的にもメリットがあるってカタチもつくりつつ、入退院支援みたいのが地域でできると 結果として救急車の適正利用、臨時の入院みたいなことも減るんじゃないか…って。

 – 実践していくことと、また学術的に学んでいくことを両輪で回しながら進んでいるって感じですよね。看護師としても、対人援助職としても、所長って立場としても。多面的にはもちろんみていく必要があるけど、結局「だれの暮らしなんだっけ?」みたいなところに戻ってもきますもんね。

いやぁ、すみません3回で完結できませんでした!正直、予想はしていましたが…
いろいろ聞いてくうちに黒沢さんの想いが文字を通じてでも伝わるんじゃないかなぁと思います(そこは私の責任なのでやや不安)。もちろん、順風満帆ではなく、いろんな傷を背負いながら、また向き合っていくっていう姿勢は看護師として、人として素敵だなぁと。普段一緒にいてもなかなかこういうトーンの話って聞けなかったりするので貴重な機会にもなったんじゃないかなと思います!
そして、次回こそ最終回!!

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『the town stand FLAT (FLAT STAND)』
2016.6月にOPENしたコーヒースタンドとコミュニティスペース機能をMIXした「まちのセカンドリビング」を目指したコミュニティカフェ。まちに暮らす人が1杯のコーヒーやワークショップなどのイベントを通じて、人やコトに出会い、関係性をつくり育んでいくための出入り口の役割を担うべく、さまざまなな活動を展開中。
運営は、訪問看護ステーション/居宅介護支援事業所を運営する株式会社シンクハピネス

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