フラットインタビュー vo.5 Hi PRESS 平田有輝恵 (後編)

VOICE

FLAT STAND管理人の和田(ここでは、しげをと呼ばれている)が『たまれ』に出入りするメンバーに話を聞いてまわるシリーズとしては第1弾。前編は、銅版画のアトリエ「Hi PRESS」を運営する平田有輝恵さんに、なんで「たまれ」と呼ばれるここにアトリエを構えたのか、なんで「看護師」として働きながら「臨床美術」を学んできたのか…、そんなことをラフに聞いてみました。
後編の今回は、「銅版画」との出会いや今後の展望なんかについても聞いてみましたー!!

銅版画との出会い

-そこから銅版画に出会ったのってどんな感じで??

平田:看護師としても働いて、さっき言った感じで臨床美術の資格をとって活動して…。医療の知識は現場でアップデートできていても、美術の知識ってほとんどないやん、美術のこともちゃんと学んでないしなあって思って。昔から美大は行きたいと思ってたし看護師で美大卒って箔がつくやんって考えて、通信のある武蔵野美術大学に2012年に入って。

-看護師、臨床美術士、美大生って3足のわらじだもんね。

平田:そう。もう長いよねー
で、大学でたまたま受けた銅版画の授業がめっちゃ楽しかったんだよね。
版画の画風が自分の絵に合ってるっていうのもあるけど、銅版画のプロセスって作業工程が多くてそれがすごく惹かれたんだよねー。細かい作業を、丁寧に丁寧にしていく。ドローイングに対して、トレースしたり銅版を腐食させたり…工程ごとに絵と向き合う感じが「自分と向き合う」芸術って感じなのかな。
それと、版画は印刷技術の原点なんやけど、今のデジタルの時代にある歴史を感じる文化というか…アナログの魅力があるんよねー。いろんなものがデジタル化されている時代にこそアナログの価値が上がると思ってる。あえて手で作る、みたいな。
それと情報化社会の中でみんなが知らないってことにそもそも価値があるって。版画って木版画やゴム版画はみんなイメージできるけど、銅版画?「これ誰もしらない」やつ見つけた!って。

-それにプラスして、看護師だしね。

平田:そう。臨床美術士の中に看護師も少ないんけど、さらに銅版画って他におらんやろって。「知らない」ものを伝えていくっていうことが好きなのもあるんだよね、きっと。

-確かにさっきの臨床美術の話のときにもそんな話してたもんねー。
それで銅版画と出会って、そこからどういう風な感じでハマっていったとか、銅版画のどういうとこが魅力とかってある?

平田:「繊細な線」かなー。
あの繊細な線っていうのはボールペンで描いたような感じなんだけど、実は違う。銅版画にしか表現できない彫りの深いシャープな線なんだよね。そして銅版に偶然できた傷までもが味のある絵に仕上げてくれる。それと細かい作業に没頭していく感じ。

-確かに。オレも銅版画を知らなかったら展示されている作品をみて「銅版画」とは思わないもんね。それって知ってるか、知らないかで全然違うよね。で、「これ、銅版画かな?」って思えると感じ方も変わるしコミュニケーションも変わってくるよねー

平田:そうそう。版画も知ってほしいのはあるけど、版画ってことを通じて「知ってるか」「知らないか」っていうだけで、暮らしている中で見ているものや触れているものの解像度あがるじゃん?だから、版画を体験して知るだけではなく、いろんなきっかけや情報にふれてもらえる幅広い意味でのアトリエにしたいと思ってるんだよねー

-なんか話を聞いていると、臨床美術でやろうとしていることを、銅版画っていうことを通じてやろうとしているのかなーって思えたりするね。

平田:そう。版画だったり、ものづくりを通じて、いろんな気づきがあったり、モノの見方が変わったりしたり、私ならではのことができたらなって思ってはいるんだよねー将来的に。それを教えてもらったのが版画の先生の影響が大きいかな。そういう『縁』っていうのも大切にしてるんだよね。
臨床美術士で活動していたけど、今は臨床美術っていう枠にとらわれず、いろんなものづくりで予防医学的なことしていきたいと思ってるんよ。

-ここでアトリエ構えるのも「直感」「タイミング」と『縁(えん)』だもんねー

訪問看護を通じて感じた「暮らし」との距離感と関係性

平田:そもそもLIC訪問看護リハビリステーションに来たのも「縁」だからねー

-だねー。んでフタ開けてみたら共通の知人もいたりして…

平田:そうそう。病院での勤務と並行して、誘われて週1で「訪問看護師」としてバイトしはじめたんだよね。そしたら「おもしろいやん!」って。そこで感じたのが、「1対1で1時間看れるってすごい!」って。病棟ではそんな時間の使い方できないから。そこで改めて「人の話聞くの好きだなぁ」って思った。

-それって何がそう感じる部分だったんだろ?やっぱり療養病棟に勤めている中で感じていたことのギャップみたいのあった??

平田:「病院での看護」とは違うし、「自宅での看護」「地域での看護」って、病気のことや身体のことだけみるんではなくて、『人』のことをみられるなぁって。症状を維持したり、悪化しないようにしたりはもちろんやけど、それだけじゃなく「その人の人生」をみるって。なんかすごく予防的な視点もそこに含まれているなぁって。

-そこら辺もつながってるんだねー

平田:予防医学のことをしゃべって伝えたり、話を聞いたりするのも好きだし。

-しゃべるってのはアレだよね、「聞く」ことも含めて。

平田:もちろん。
アトリエ運営してワークショップしたりもしてる中で、私はアーティストとして作品を観せるってことよりも、なんか伝えるってことがしたいんだよね、きっと。
2017年にデンマークキャンプに看護師として参加したもの大きかったなぁ。無理だろうって思うような車いすの人をひょいひょいと山登りに連れていってキャンプしちゃうって日本の感覚じゃ難しいだろうなぁって。なんか日本の中だったり、自分が経験してきた枠組みの中だけで考えるってもったいないんだって感じたよね。それをそのまま日本に取り入れたらいいとは思わないけど、そういう感覚を体験できたし、知れたってことはすごく大きいよね。だからそういう「諦めちゃう」って人たちにも情報として伝えられたりってできるといいし。

 

-伝えたいんだねー
そのために自分がいろんなことを知ったり、いろんな角度からの伝え方をしたり、って自分が選択肢を持っていた方がカスタムできるしパーソナライズもできる。んでそうなると、伝わる量や確率もあがっていくよね。
一見直感で動いているけど、かたやロジカルに、すごく効率的にって意識で動いてるんだろうねー

平田:そう。めっちゃ右脳と左脳を行き来してる感じ。

-そういえば、なんか変わってきた?ここ最近。なんか、前より心地よく過ごせてそうにみえるけど…

平田:いつくらいから? コロナもこともあって、しばらくあんまり活動的ではなかったけど、コラボイベントをできてるってのは大きいのかなー、みずピー(※)とか。なんか、ここでやってて、自分だけでは届かない人たちとの関わりが増えたりしてきてるからね。ここにいる意味みたいのもすごくでてきてるよね。

-もうここにプレス機持ち込んで3年??そのときの「絶対ここにあった方がいいじゃん!」って感覚から、プレス機や版画、平田さんを通じて、この地域にいる人たちが「価値を感じる」ってとこまで来てるのは時間がかかったのか、早かったのかはわからないけどねー。でも確実に進んできたよねー振り返ると。

平田:だから「直感」は間違えてなかったんよね!!

-そうね。間違っているかどうかってわかんないし、間違ってたら修正すればいいから結果として失敗にならないしね。

平田:これから先もいろんな活動はしていくし、将来的には、「予防医学」「ものづくり」「アート」「福祉」…みたいなことを合わせられるような場をつくりたいと思ってるんだよねー。でも、場所は固定しない感じ。2ヶ所かもしれないし3ヶ所かもしれないし。

-楽しみだねー
なんかこうやって話す機会ってあんまりなかったけど、改めて「医療」や「アート」、「直感」と「ロジカル」…暮らしている中でいろいろ揺れながら、でも前に進んでいってんだなーって振り返るいい機会だったし、自分もなんで思いきれたか、みたいな初期衝動みたいな気持ちも思い出せたりしたなー。

平田:たしかに!
なんか話はつきないけど、情報もりもり過ぎるだろうからこの辺にしとこう(笑)

-(笑)
すげー楽しかったけど、実際どういう記事になるかは、編集のやりとり含め、お手柔らかにお願いします。

平田:りょうかーい!

-では、今日はお時間いただき、ありがとうございました!

 

※1 みずピー:あそびのアトリエzucco roccaを運営するみずピー&シナモンの1人です。

 

看護師として、アーティスト(本人はアーティストってよりは伝える人っていうけど)として活動している平田さん。正直なかなかハードな動きもしているって思っているけど、そのベースにちょっとだけ触れられたような気がします。なんか結構長いこと関わってきているものの、意外に知らないこともたくさんあってインタビューする私にとってもすごく心地いい時間でした。
「たまれ」にはおもしろい人がたくさんいるので、今後もご紹介できたらと思いまーす!!

 

フラットインタビュー vo.5 Hi PRESS 平田有輝恵 (前編)

 

Written by デリしげ